【門前仲町】「タイポさんぽ」の著者が指南。街中のタイポグラフィの楽しみ方

東京都

2020.07.27

LINEでシェア
はてなでシェア
pocketでシェア
【門前仲町】「タイポさんぽ」の著者が指南。街中のタイポグラフィの楽しみ方

これまで、出かけるたびにたっぷり散歩に時間を割いて、味わい深い看板文字と出会ってきました。どの街を訪れても、個性溢れる姿でメッセージを投げかけてくる「市井の文字」との出会いが待っています。今回は、江戸の昔から人が集まる街、東京・門前仲町を探険。「看板目線」で街を見上げて歩けば、きっと新しい発見があるはず!

Text&Photo: 藤本健太郎(グラフィックデザイナー)

目次

閉じる

門前町のおいしい手書き文字

ふしぎな主役

ほっこり系スーパーロゴよ、永遠に

前のめりで勘違い

並ぶ昼の顔

おわりに

門前町のおいしい手書き文字

門前町のおいしい手書き文字

門前仲町といえば深川のお不動さま、ということで、成田山 東京別院につながる「人情深川ご利益通り」を歩いていたら、格好良くキマッた「甘酒」の二文字と遭遇。

「獺祭の酒糟から作った甘酒」と、フォントではなく、筆による手書きの説得力が光る吊り下げ幕。クラシックな佇まいが、いかにも門前町らしくて嬉しくなってしまいました。筆書きゆえに、当然一つとして同じ字は生じません。オモテとウラでカスレの表情が違うのです。
店頭には同様の筆文字が他にも。達筆の方がいらっしゃるんですね。

ふしぎな主役

ふしぎな主役

町なかで、ときどき強めの個性を煌めかせて視線を奪いにくるのが、印鑑屋さんの看板。文字を扱うプロ中のプロだけに、凝っているのも道理、でしょうか。
こちら、古田印房の看板。各文字左上の、ピッと魚のヒレのように鋭角に飛び出すディテールが魅力的な四文字。心の中で「デター!」と叫んでしまうレベルの大興奮でした。

印鑑屋さんの看板で一番の主役はやっぱり「印」の字だと思いますが、こちらの看板ではこの姿! まるで歌舞伎のキャラクターのよう。個性も茶目っ気も満点で、堂々としています。
こうして一文字として向き合うと、「印」ではない別の国の文字に見えてくる、そんなふしぎな形の面白さがありませんか。
ずっと見ていると気持ちは日本を離れ、どうも、カレーがおいしそうな、どこかアジアの彼方の街を彷徨いはじめてしまいます……。

ほっこり系スーパーロゴよ、永遠に

ほっこり系スーパーロゴよ、永遠に

門前仲町から真っ直ぐ、富岡の汐見橋の方へ歩いてみたら、かわいいスーパーの看板に巡り会いました。ちょっとふにゃっとしていて、レトロ感満点の「エンゼルファミリー」の文字に目が釘付けです。エンゼルファミリーは昭和38年創業で、現在はこの門前仲町店と、両国店、永田台店、大曽根店の4店舗があるのだそう。昭和38年というと1963年。もしかして、創業当時のロゴをそのまま守り通してるのかも……!? と思ってしまうほど、ほっこりハートウォーミングな看板文字でした。

前のめりで勘違い

前のめりで勘違い

永代通り沿いを進むと、向こう岸になにやら大胆アレンジをほどこされたのか、緑色の「や」のような文字が!? これは面白そうな形! 街路樹の緑で見えない部分にははたして何と続くのか……と気になって、急いで真っ正面に回りましたが、全体が見えてハッとしました。

なんとこれは「や」ではなく、バットを構えた野球選手の上半身ではありませんか。下に続く字のように一瞬見えたものも、走る人の姿でした。思わず「やまや」とか「やさい」とか、そういったことばが現れることを期待していたのですが、正体はスポーツ店のピクトグラム看板だったのです。
オンリーワンな面白ルッキングの文字を探して町を歩いていると、つい、こうした前のめりの勘違いが生じてしまうこともあるのです……。でも、スポーツ店の野球選手のピクトグラムが「や」の字に見えたなんて、ちょっと楽しい偶然じゃありませんか?

道を渡って近くに寄ったら、同じお店のレトロルックなカタカナ看板も見つけられました。

並ぶ昼の顔

並ぶ昼の顔

日が暮れて「よし、じゃ〜飲むか!」とテンションが上がってきてしまったら、この文字たちとは、どうしたって落ち着いた気持ちでは向き合えない、そんな気がしてしまうのです。門前仲町周辺、太い往来から一本中に入れば、夜、魅惑的に光る文字たちの、昼の顔を垣間見ることができます。

渋み満点の中通り「辰巳新道」。居並ぶ年季の入った看板のなか、「いずみ」さんの三文字のレタリング(手書きでデザインされた文字のこと)に心を惹かれました。

このなんとも美しいバランス。堂々とした姿勢。まるで、真っ直ぐに背筋をのばした、クールな笑顔の女将さんを、ひらがな三文字で表現したかのようではありませんか。書かれた当時には見えなかったはずの、看板屋さんのハケの動きが、時を経てペンキが色褪せ、カスレのようになって浮き現れてきたことで、この文字には“凄み”の印象も追加されたのでしょう。上品さと迫力を合わせ持った素敵な看板文字でした。

おわりに

人の集まる寺社の前に、次第にお店や飲み処が増えていく……。そんな、古い出来かたをした街という感じがいかにも漂っていた門前仲町。都心にあっても、文字さがし好適地! という印象を強く持ちました。今回ご紹介した看板の他にもたくさん、個性的であったかい、オンリーワンな文字たちが息づいていましたので、ぜひ「看板目線」で道に迷いに行ってみてください。


◆藤本健太郎(ふじもと・けんたろう)
1973年北海道生まれ。グラフィックデザイナー。仕事の合間にあちこちへ出かけては、いろんな文字と出くわして、面喰らったり感動したり。そんな町歩きの成果を、『タイポさんぽ ―路上の文字観察』、『タイポさんぽ 台湾をゆく: 路上の文字観察』(誠文堂新光社刊)でまとめている。

Related Tag

#旅 #旅行 #門前仲町 #タイポ #さんぽ #レトロ #ご近所トリップ

Author

tabiiro 旅色編集部

tabiiro

旅色編集部

編集部おすすめの記事や、注目のインタビュー、旅色に関するニュースなどを発信しています。メンバー限定で参加できるファンコミュニティ(likes.tabiiro.jp)の活動報告や、イベント情報も! ▽注目のコンテンツ ・読めばきっと旅気分「月刊旅色」 ・ローカルにフォーカスする「旅色FO-CAL」 ・おいしいが見つかる「旅色おとりよせグルメ」

Articles

tabiiro 旅色編集部

まだ間に合う! 女子キャンプブームの火付け役・こいしゆうかさん伝授、GWの穴場キャンプ場5つ 〔2024年4月更新〕

tabiiro 旅色編集部

旅色の地域プロデューサーおすすめ! 実はカフェ激戦区な宇都宮で本格珈琲が飲めるお店3選

tabiiro 旅色編集部

【北海道】いま活気づく仁木町で春の女子旅へ

New articles

- 新着記事 -

「これからの沖縄・那覇観光は“何度来ても楽しめる”がキーワード」 沖縄観光コンベンションビューロー 黒島伸仁さんインタビュー
  • NEW

沖縄県

2024.04.25

「これからの沖縄・那覇観光は“何度来ても楽しめる”がキーワード」 沖縄観光コンベンションビューロー 黒島伸仁さんインタビュー

編集部 ヨシカワ

ヨシカワ

編集部

沖縄のソウルフード「ブルーシール」って結局なに!? 県民に愛される理由を聞いてみた
  • NEW

沖縄県

2024.04.25

沖縄のソウルフード「ブルーシール」って結局なに!? 県民に愛される理由を聞いてみた

編集部 ヨシカワ

ヨシカワ

編集部

“スタッフが魅力”のホテルサンパレス球陽館に聞く、覚えられるホテルの秘訣
  • NEW

沖縄県

2024.04.25

“スタッフが魅力”のホテルサンパレス球陽館に聞く、覚えられるホテルの秘訣

編集部 ホソブチ

ホソブチ

編集部

武田梨奈さんと初夏の陽気に包まれた沖縄・那覇へ『月刊旅色2024年5月号』
  • NEW

沖縄県

2024.04.25

武田梨奈さんと初夏の陽気に包まれた沖縄・那覇へ『月刊旅色2024年5月号』

編集部 ヨシカワ

ヨシカワ

編集部

[宿泊券プレゼント]月刊旅色5月号でも特集中の沖縄・那覇へ行こう!
  • NEW

沖縄県

2024.04.25

[宿泊券プレゼント]月刊旅色5月号でも特集中の沖縄・那覇へ行こう!

編集部 ヨシカワ

ヨシカワ

編集部

ゼロ磁場の魔法で心を癒す!? 長野のパワースポット・分杭峠で究極のリフレッシュ旅[2024年4月更新]
  • NEW

長野県

2024.04.24

ゼロ磁場の魔法で心を癒す!? 長野のパワースポット・分杭峠で究極のリフレッシュ旅[2024年4月更新]

甲信&ドライブ旅 みっちゃん

みっちゃん

甲信&ドライブ旅

More

Authors

自分だけの旅のテーマや、専門的な知識をもとに、新しい旅スタイルを提案します。

編集部 ヨシカワ

編集部

ヨシカワ

編集部 ホソブチ

編集部

ホソブチ

甲信&ドライブ旅 みっちゃん

甲信&ドライブ旅甲信&ドライブ旅

みっちゃん

LIKESレポーター ERI

LIKESレポーターLIKESレポーター

ERI

旅色LIKES メンバー

旅色LIKES旅色LIKES

メンバー

女子旅 ほしこ

女子旅女子旅

ほしこ

建築史家 倉方俊輔

建築史家

倉方俊輔

映え旅 あんはな

映え旅映え旅

あんはな