「旅はコンビニに行くようなもの」フォトグラファー・ヨシダナギが語る旅と出会いその0

「旅はコンビニに行くようなもの」フォトグラファー・ヨシダナギが語る旅と出会い

2018-07-17
122281 Point
世界の少数民族や先住民の魅力を写真で伝えるフォトグラファー・ヨシダナギさん。先日、BEST作品集『HEROES』を上梓した彼女に、旅について、謎に包まれたプライベートについて2回にわたってインタビュー。

前編は、彼女にとっての“旅”とはどんなものなのか。また、旅先で出会った大切な人について、お話を伺いました。

Text:横前さやか
Photo:中川文作

旅はコンビニにいくようなもの

旅はコンビニにいくようなもの
――――アフリカをはじめとする少数民族を撮り続け、海外を飛び回っているヨシダさんにとって、そもそも“旅”とはどんなものでしょうか?

近所のコンビニに行く感覚ですね。今でこそ仕事で写真を撮ることが多くなって、旅は仕事という考えに変わってきている部分もありますが、それでも旅行気分は全くないんです。ウキウキすることもなければ、気合いを入れることもなくて。人の旅を見ているとキラキラした雰囲気を纏ったものなんだなと改めて気づくんですけど、自分にとっての旅はそれほど特別なものではありません。出かけた近所のコンビニに、ヒーロー(先住民)がいる感じです。
――――旅をするにあたって、用意していくものなどはありますか?

それが、あまりないんです。アフリカに行くから、バックパッカーみたいな格好で行くこともないですし、普段着ている洋服のまま現地へ向かいます。ただ、靴だけがちょっと変わるくらい。ブーツだと痛んでしまうので、ビーチサンダルを履いていきます。

こう話していると、持っていくものは最小限だと思われるかもしれませんが、荷物はすごく多いんですよね。自宅と変わらない状態で過ごしたいので、普段使っているものは基本的に全部持っていきます。現地で使わないことも多いんですけど、持っていかないより荷物が多い方がまし、という感じですね(笑)。

自分の興味のある場所にしか行けない

自分の興味のある場所にしか行けない
画像提供:ヨシダナギ


――――旅先はどのように決めていますか?

「この場所なら撮影できる」「この人が気になる」というのを大切にしています。たとえ仕事でも、全く興味のない場所に行って作品を撮らなければならないとなると、自分の作品のクオリティが下がってしまうと思うので……。自分の興味のある場所じゃないと行けないんです。
――――これまでの旅で、印象に残っているエピソードはありますか?

1年前の1月にエチオピアのアファール族を撮影したんです。彼らは外国人と出会ったこともなくて、カメラも知らないし、ましてや車に乗ったことさえない人たちでした。なので最初は、モデルになってもらうということの理解自体が難しいかなと思っていたんです。でも、“自分たちのことをかっこいいと言って、どこの国かわからない人たちがはるばる探しに来てくれた”ということを汲んでくれたんです。
――――そうなんですね! 撮影中はどんな雰囲気でしたか?

撮影では、どの民族でも朝が早いだとか時間がかかるだとか必ず文句が出るんですね。でも彼らは車で2日半の移動でも何の文句も言わなかった。“自分たちを選んでくれた”ということにフォーカスを当ててくれていたんです。見た目がかっこいいのはもちろんなんですけど、考え方までかっこいいだなんて、なんてイケメンなんだろうと感動しました。

実は、この撮影では初日に強風でいい写真を撮ることができなくて……。すごく落ち込んでいたら「写真を見せて」と言われました。自分的には全然ダメだと思っていたんですけど、彼らは「いいじゃん!」と言ってくれたんです。気遣いのできる素敵な人々でした。
――――旅先での人との出会いの中で、心に残る言葉があれば教えてください。

「考えすぎるな」ですね。
アフリカ人に言われた言葉なんですけど、いまでは本当にその通りだなと感じています。日本人は先のことを考えて落ち込んじゃったり、不安になったり……そのせいで今やりたいことをセーブしたりすることが多いと思うんです。でも、アフリカ人にこの言葉をかけられてからは、未来なんてどうなっているかわからないし、今が楽しければ未来も絶対楽しいに違いないという考えが生まれてきました。この考えは理にかなっていると思うんですよ。つまんなそうな人に良い人は寄ってきませんよね。

だから、それ以来は“悩んだら放棄する”ということを覚えたし、ネガティヴなことを口に出さないようにしています。
◆ヨシダナギ
1986年生まれ、フォトグラファー。幼少期からアフリカ人へ強烈な憧れを抱き「大きくなったら彼らのような姿になれる」と信じて生きていたが、自分は日本人だという現実を10歳で両親に突きつけられ、挫折。
2009年より単身アフリカへ渡航。独学で写真を学び、アフリカをはじめとする世界中の少数民族を撮影、発表。2017年に講談社出版文化賞【写真賞】を受賞。2018年4月にヨシダナギBEST作品集「HEROES」を発売。その他、写真集『SURI COLLECTION』(いろは出版)、紀行本『ヨシダ、裸でアフリカをゆく』(扶桑社)がある。


次回は、ヨシダさんの謎に包まれたプライベートに迫ります。
 

【関連記事】「写真を撮ることはそんなに好きじゃない」フォトグラファー・ヨシダナギが語る人生観

世界の少数民族や先住民の魅力を写真で伝えるフォトグラファー・ヨシダナギさん。先日、BEST...

インタビュー 旅行 海外 連載