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【日本ならいごとの旅 第5回】日本書紀に遡る薬草のふるさと・宇陀で暮らしに生…
【日本ならいごとの旅 第5回】日本書紀に遡る薬草のふるさと・宇陀で暮らしに生きる植物の知恵を学ぶ
人と薬草との関わりの歴史は飛鳥時代に遡ります。日本書紀によると、推古天皇が大和高原で薬猟をされたのが旧暦5月5日、現代の6月18日前後にあたります。梅の「土用干し」でも知られる夏の土用。この時期に干すと特に薬効が高く、薬草摘みの適期とされています。薬草文化発祥の地で初夏の薬草を味わってみませんか。
Text&Photo:前田知里
薬草文化発祥の地、大和高原宇陀
「夏五月の五日に、菟田野(現在の宇陀市)に薬猟す。」推古19年(611年)旧暦5月5日に宮中行事として行われた薬狩りの様子が日本書記に記録されています。5月5日といえば端午の節句ですが、現代の6月18日前後にあたり、実は初夏。この頃採れる菖蒲やヨモギは薬草として使われていました。本来、端午の節句は「薬の日」でもあったのです。特に季節の変わり目である深緑の土用には含有量が高くなることが経験的に知られ、古代から男性が狩りをする間、女性は薬草を摘んでいました。
薬狩りが行われた宇陀は、「薬草のふるさと」として白洲正子の「かくれ里」にも登場します。不老不死の薬とされた水銀の鉱脈があることでも知られ、その近くに生える植物を食べると活力になると信じられていました。徳川吉宗の時代には日本最古の私設薬草園が作られ、当時は和薬店が12軒、薬酒店が12軒、薬剤を調合する合薬店が23軒もあったそう。近代になると、ロート製薬、ツムラ、アステラス製薬など名だたる製薬企業が誕生しています。古くから薬の里として栄えたのは、この地が薬狩りに適していたからでしょう。
優しい山々に包まれた高原が広がり、夏でも涼しい避暑地。今や薬草好きの移住者も多く、薬草を使ったメニューが楽しめるカフェやゲストハウスが人気となっています。今回は、そんな宇陀の町で薬草について、見て、食べて、体験して、五感で学べるスポットをご紹介します。
<見る>日本最古の私設薬草園「森野旧薬園」
まずは、地元ボランティアの方の案内で森野旧薬園を歩きます。吉宗の時代に開設された薬草園には、当時、幕府から下賜されたという6種類の薬草の他、6000㎡ほどの面積の土地に、およそ250種の薬草が栽培されていて、薬草の基礎知識を学ぶには最適の場所です。
よくあるリサーチセンターの薬草園と違って、こちらの園内では「半自然栽培」という雑草や虫たちにも住みやすい環境で育てられています。里山の風景の中に薬草がとけ込むカタチは、古来よりこの地で人々が暮らしの中で取り入れてきた薬草とともに生きる知恵を垣間見ることができます。
本業は葛の生産。いまでも葛の根掘りさんが山で採ってきた根を加工されています。大宇陀のまちなかにある「葛の館」では、葛餅や葛きりを味わうことも可能。
▲葛の根
▲セリバオウレン
▲整髪料に使われてきたビナンカズラ
サカキとともに古くから神前にお供えされてきた木招霊(オガタマ)の木。神楽鈴のモデルになったとか。
◆森野旧薬園
住所:奈良県宇陀市大宇陀上新1880
電話番号:0745-83-0002
<食べる>大願寺にて薬草の精進料理
ランチにおすすめなのは、薬草をたっぷり使った薬草料理が食べられる大願寺。京都の禅寺で茶懐石を学ばれたという和尚さんの解説つきで次々に食卓を彩る四季の薬草をいただけます。
前菜。金柑の器に葛粉で黒豆を嵌めた翡翠寄せ
トマトと南瓜の市松羹、酵素玄米に田楽。
吉野本葛の胡麻豆腐、そして三種盛りには、またたびの実や紅花、カンゾウなどが使われています。
飛龍頭のあんかけ
ひょうたんカタチにくり抜かれた大根には、 菜っ葉の茎で結ばれています。
季節の薬草のてんぷら。
さらに、吸い物、ごはん、デザートへとつづきます。
野草や薬草について学ぶとき、植物園や図鑑で見ているだけでは、なかなか頭に入ってこないものですが、実際に食べてみると、より身近に感じることができます。
◆大願寺
住所:奈良県宇陀市大宇陀拾生736
0745-83-0325
<体験する>食べて味わって学ぶ薬草の効能
さて、食事のあとは、地元の薬酒づくり名人の案内で薬草採集へ。
薬草を求めて里山を歩くこと約1時間。少し歩いては立ち止まり、里山の風景いっぱいに満ちた薬草の解説が始まります。
「韓国ではツルニンジンの根を食べるんですよ。オドリコソウ、シュンラン、スミレは和のエディブルフラワー。ユキノシタ、ヨモギ、ドクダミ、ゲンノショウコはお茶に、またたび、サンシュユなど果実は薬酒にできます。」と、案内人。今回は、薬酒づくりということで、適した薬草を選びます。
ツルニンジンの根をその場でテイスティング。
そのままでもおいしいですが、薬酒にします。
▲またたびの虫コブ
オドリコソウはシソ科。花は薬酒、葉はナムルになりました。
ウツボグサやスミレ、ヤマモモ、サンショウ、ヤドリギ、オドリコソウ、シュンランなど季節折々の植物、そして、マムシやムカデなどなど、名人が作ったとっておきの薬酒をテイスティング。
漢方薬のような苦みのある薬酒や、甘い果実の香り、芳香剤の香りがする薬酒等様々な味わいが楽しめます。普段見慣れている道ばたの花も、実際に味わってみると、また違ったものに見えるかもしれませんね。
◆里山文庫
住所:宇陀市室生田口元上田口1106番地 大和棟古民家JINYA内
電話番号:090-2746-9472
※薬酒作り体験は5名以上で要予約
その他のおすすめスポット
まちぐるみで薬草の栽培に取り組む宇陀では、大和トウキを使った様々なメニューを提供されるカフェやレストランがいくつかあります。ランチ後にちょっとお茶したい時に立ち寄れる、おすすめのお店は2018年4月にオープンした「森の音」。季節や症状に合わせてブレンドされた薬草茶を楽しむことができます。ゲストハウスに併設されていて、宿泊も可能です。
◆森の音
住所:奈良県宇陀市大宇陀西山91 ゲストハウス「奈の音」内
電話番号:080-2331-0752
暮らしに生きる植物の知恵
普段目にしている植物でも、あらためて言われてみないとなかなか薬草だとは気づきにくいものですが、昔はもっと、わたしたちの暮らしの身近にあるものでした。やがて近代化とともに忘れられてきた自然とともに生きる知恵がこの地にはありました。図鑑やテキストからは学びにくい生の植物の生態を、手にとり、味わい、加工体験しながら学ぶ旅にでかけてみませんか。
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