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【日本ならいごとの旅 第2回】林業の町・那賀町で受け継がれた手しごとを学ぶ

2018-03-23
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木造高層建築を可能にする新しい建築材CLTが注目されていますが、一方で、林業を生業にする町は木材需要の激減から衰退の一途をたどり、集落消滅の危機に瀕しています。9割を森林に囲まれた林業の町、徳島県那賀町もそんな悩みを抱える中山間地域の一つ。しかしそこには、不便な土地であるが故に連綿と受け継がれた暮らしの原点がありました。丁寧に紡がれた暮らしの時間を感じながら生きることを考える旅へでかけてみませんか。

text&photo:前田知里

林業の町、徳島県那賀町

徳島県那賀町は、IT企業のサテライトオフィスでおなじみの神山町に面し、徳島市内からは車で1時間、大阪からは3時間の距離にあります。5つの市町村合併でできた町で、端から端まで横断すると車でも約2時間かかります。標高 1,000m以上の山々に囲まれ、面積の9割以上が森、そして谷間を縫うように点在する集落に人々は暮らしています。
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この町のことを知ったきっかけはフリーマーケットで偶然手にした『じいとばあから学ぶこと〜small good things 』という冊子でした。冊子には、山の薬や炭焼きのこと、保存食や手しごとの知恵が記されていました。まるで昭和30年代から時間が止まってしまったかのような世界。ここに行ってみたい!と思い立ち、筆者に連絡を取り、現地に行ってみると、モノクロで想像していた暮らしが豊かな自然の中でカラフルに息づいていました。
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『じいとばあから学ぶこと』(2011年 ZiVASANプロジェクト出版/823円)


廃れゆく林業の傍ら、雑穀をつく水車小屋が現役で使われていて、炭焼き小屋には老若男女が集い談話しながら炭作りが行われていました。紙の原料としても使われるコウゾの樹の繊維から糸を撚る作業は気が遠くなる作業です。それでも、多忙な都会での暮らしを忘れると、風の音や、森に流れる水の気配を感じられるようになり、豊かに生きるということはどういうことかを改めて考えさせてくれます。不便な立地だからこそ受け継がれてきた豊かな文化と知恵を学ぶならいごとをご紹介します。

コウゾの木で作る古代織物「しらたえ」を織る

万葉集にでてくる「しらたえ」というのは、コウゾで織った太布のこと。かつて、那賀町では男は山仕事で稼ぎ、女は手習いとして織物ができるのがいい家だと言われてきたそうです。

作業としては、1年で一番寒い1月にコウゾを蒸して皮を剥ぐ「カジ蒸し」が行われます。
剥いだ皮を干しているところ
刈り取られたあとのコウゾの畑


以降の作業ははほとんどが糸績み。「糸作りが8割り」といわれる太布づくりの鍵は糸にあり、同じ太さになるように、太い部分を裂いたり、継いだり、糸作りの作業が続きます。
 
私も作業に入らせてもらったのですが、とても根気のいる作業です。うまく継げていないと、織る時に糸が切れてしまいます。おばあちゃんたちは、どんなに便利になって簡単に服が買えるようになったとしても、暮らしの一部として自然に続けてきた手の感覚は、ずっと残っているのだそう。

現代の服は、時ともに価値が減っていくけど、太布は時とともに体になじんで価値が上がっていきます。使い捨てでない一生ものの衣服づくりが現代でも続けられていることが印象的でした。

生きがい工房「太布庵」では毎週火曜日太布織りをしていて、事前予約をしておくと見学させてもらえます。
問い合わせ先
◆太布庵 
住所:徳島県那賀郡那賀町木頭和無田字イワツシ1
電話番号:0884-68-2386(火曜日のみ)

山の生活技術を伝える炭焼き小屋

養蚕、機織り、炭焼きといえば、かつては、農山村でよく見られる生活産業でした。昭和30年代頃まで、炭は生活に欠かせないものでした。かつては炭の原木が採れる場所の近くに寝泊まりできる炭焼き小屋を建て、木を求めては窯場を移動したといいます。生活様式が変わり、急速に廃れた山で生きるための技と知恵を次世代に伝えていこうと集まった仲間たちと作られたのが「おららの炭焼き小屋」です。

炭火は遠赤外線の効果によりおいしく調理できると、いま再び注目されていて、旅館や料亭などでの需要もあるそうです。
写真提供:equallab


炭焼きだけではなく、間伐や小屋の建て方を学べるほか、川遊び、山遊びなど山の暮らしを学べます(見学は要予約・応相談)。


問い合わせ先
◆おららの炭小屋
住所:徳島県那賀郡那賀町木頭北川船谷
電話番号:050-8800-7240

“しゅうとめさん”ご紹介!80歳のおばあちゃんとの共同運営のゲストハウス

最後のオススメは、那賀町木沢地区にある築150年の山里の一軒宿「杉の子ゲストハウス」。木沢地区は、那賀町の中でも特に山奥にあり、「あそこは寒くて大変でしたでしょう」と町の人たちから言われるくらい秘境中の秘境にあります。オーナーの桑高仁志さんは、地域おこし協力隊として那賀町に移り住んだ移住者で、自分たちで大工仕事をして築約150年になる古民家を改修し、2016年にゲストハウスをオープン。ご近所にお住まいの80歳代の恵美子さんと2人で運営されています。
 
写真提供:桑高仁志
「“しゅうとめさん”30人紹介できます。お好みのお婆ちゃんを選んでください」(桑高さん)。
ここの特徴は、手仕事やレシピを教えてくれる”しゅうとめさん”を紹介してくれること。都会からきた女性に地域の未婚の男性を紹介されることは田舎ではよくあるパターンですが、”しゅうとめさん”を紹介されるというのはなんとも新しい。
80歳から90歳になる世代のおばあちゃんたちは物知り。物がなかった時代に、あるもので工夫しながら何でも手作りしていた世代です。そば打ちを教えてもらったり、寒茶と呼ばれる、冬に摘むお茶づくりをしたり、こんにゃく芋からこんにゃくをつくったり。地域のおばあちゃんたちについてお話していると、桑高さんのこの地域に対する愛情が伝わってきます。一人暮らしになったおばあちゃんと、そとから来た若者が一緒に作業することで、お互いを必要とし合う共生関係ができればとお話されていました。
お部屋の内装。 写真提供:桑高仁志

写真提供:桑高仁志


問い合わせ先
◆杉の子ゲストハウス
電話番号:080-6537-9319
※予約サイトでも予約可

おわりに

那賀町には、日々技術革新が進む多忙な現代社会において、変わらないという自由を選択している人たちの姿がありました。それは、時代から取り残された価値観ではなく、むしろ豊かに生きる暮らしへのヒントが詰まっているように思います。ゆったりと流れる自分の時間を探しに那賀町を訪れてみてはいかがでしょうか。

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