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古代チーズ発祥の地、飛鳥の牧場が作るキャラメルのような濃厚チーズ【連載第6回…
古代チーズ発祥の地、飛鳥の牧場が作るキャラメルのような濃厚チーズ【連載第6回】
11月11日はチンアナゴの日、立呑の日など、様々な記念日となっている日ですが、チーズ好きならばぜひ知っておきたいのが、チーズの日だということ。その由縁は、飛鳥時代にチーズが朝廷に献上されていて、その時期が旧暦の10月、現在の11月だったことから。古代日本でチーズが造られていたということに驚きですが、そのチーズは一体どんなものだったのでしょうか…。そんな、古代に思いを馳せ、当時は貴族のみが楽しめる贅沢品であったチーズを現代に蘇らせた牧場が奈良にあります。地元の名物にと作り上げた素朴な一品は、奈良の自然が育んだ良質なミルクが美味しさの秘訣。手間暇をかけた貴重な味をぜひ楽しんでみてください。
文・写真/田口真由美
写真協力/西井牧場、ラッテたかまつ
香久山の麓で酪農を営む「西井牧場」
古代チーズを最初に再現したことで知られる、西井牧場。奈良県橿原市、大和三山として知られる香久山の麓で40年以上前から酪農を営む牧場です。小倉百人一首で有名な一首「春すぎて 夏きたるらし しろたへの衣ほすてふ 天の香久山」は、この山のこと。詠み人は、この地に藤原京を作り上げた持統天皇です。そしてこの持統天皇が治めた飛鳥時代の頃は、シルクロードを通り、大陸からさまざまな文化が伝わってきており、都には異国の人々が行き交っていたとか。そこで仏教などとともに伝わってきたのが牛の乳を食す文化。さらに乳を長期保存するため牛乳を煮詰めて固めた、加熱凝固チーズ「蘇」の製法も伝わりました。平安時代には「蘇」が朝廷への貢物として納められていたという記述も残っており、不老長寿の薬として身分の高い人々が食す高級品だったと言われています。
そんな「蘇」を再現した商品が、西井牧場で30年ほど前から造られている「飛鳥の蘇」です。材料は栄養たっぷりの牧草や遺伝子組み換えしていない大豆や穀物など、良質な餌で育てた牛たちのミルクのみ。7~8時間かけて焦がさないように煮詰めていきます。ミルクは約1/10ほどになるというので、とても大変な作業であることが想像できると思います。水分を飛ばし固形物になった「蘇」はキャラメルのような色合い。薄く切って口に入れると濃厚なミルクの香りが広がり、穀物のような香ばしい風味も。牛乳由来の甘味とほんのりとした塩気を感じることができます。
牧場の直売所「みるく工房飛鳥」では「飛鳥の蘇」のほか、絞りたての牛乳やヨーグルトなども販売しています。橿原市の土産物店などではこの「飛鳥の蘇」を使ったフィナンシェ「蘇やねん橿原」も販売されていて地元の名物となっているそうです。
自然な甘味がじんわりと口に広がり、素朴な味わいが楽しめる「飛鳥の蘇」。大和茶など地元の日本茶とよく合いそうですが、作り手である西井さんはカレーなどコクを出したい煮込み料理に入れるのもおすすめ、とのこと。栄養満点であることは間違いないので、ぜひいろいろな食べ方をして楽しんでみてください。
◆西井牧場 みるく工房飛鳥(にしいぼくじょう みるくこうぼうあすか)
住所:奈良県橿原市南浦町877 天の香久山南麓岩戸神社前
電話:0744-22-5802
「西井牧場 みるく工房飛鳥」公式ホームページ
葛城の豊かな自然の中に広がる牧場「ラッテたかまつ」
もうひとつ紹介するのは、橿原市の隣街であり、こちらも古代にまつわる寺社や遺跡が数多く残る葛城市にある牧場「ラッテたかまつ」です。大阪と奈良を隔てる葛城山の麓に広がる葛城高原にあり、ほかにも多くの牧場を見かけることができる酪農がさかんな土地です。
「ラッテたかまつ」では自家のミルクでモッツァレラや燻製チーズなどさまざまなチーズも製造しています。牧場にテラスが広がる見晴らしのよいカフェではそんな自家製チーズを使ったピザやミルクをたっぷりのアイスクリームなど、牧場ならではのメニューを楽しむことができます。
「ラッテたかまつ」で再現している「蘇」も自家のミルクのみで作られています。12時間ほどじっくりと煮詰めて塊にした「蘇」は、見た目は先に紹介した西井牧場さんのものよりも濃い色合いです。薄く切って口に入れるとなんとも香ばしい風味。ジャリっとした食感もあり、原料はミルクだけなのに、旨味や塩気も感じられます。パッケージには奈良名産の吉野杉が使われていて高級感たっぷりです。
◆ラッテたかまつ
住所:奈良県葛城市山口278-3
電話番号:0745-62-3953
「ラッテたかまつ」公式ホームページ
おわりに
ミルクの状態を見極めながら、煮詰める温度や時間を調整し作り上げるのでとても手間暇がかかる「蘇」。今回紹介した2つの「蘇」を食べ比べてみましたが、同じ牛乳を使っているのに味わいが異なり、ミルクの個性や製法の違いを感じられましたよ。
平安時代以降、なぜか姿を消してしまった「蘇」。時を越え今に再現された奥深い味わいを、ぜひ楽しんでみてくださいね。
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