北海道の知床半島と言えば世界遺産に指定されており、国内外問わず人気の観光スポットとなっています。そんな知床半島で「しれとこで夢を買いませんか」というキャッチフレーズでナショナル・トラスト運動が起こったことはご存知ですか?
今回は、世界でも珍しい自治体がナショナル・トラスト運動を行った「しれとこ100平方メートル運動」についてご紹介いたします。
しれとこ100平方メートル運動とは?
「しれとこ100平方メートル運動」とは、日本で起こった本格的なナショナルトラスト運動です。
ナショナルトラスト運動とは、元々はイギリスのボランティア団体である「ナショナル・トラスト」によって行われた活動が原型。環境破壊から守るために、保護する地域(今回の場合は知床)を市民活動などによって買い上げたり、自治体で買い上げて保全する活動のことをいいます。
この「しれとこ100平方メートル運動」が起こったことによって、知床は乱開発されることなく、原生の森を守る活動を行うことができたと言っても過言ではありません。
知床開拓の時代
知床の開拓は、1914年から始まりました。国の開拓計画によって、戦前から戦後にわたって3度の開墾を実施。ですが知床の土地は地中に転石が多く、畑に向かない土地だということが判明します。開拓計画は全般的に見直され、有畜農業への切り替えや工場の設置が進められるようになりました。
1960年代に入ると、知床の原生林の自然価値が評価されることとなり、知床は日本で22番目の国立公園に指定されます。そのため、「秘境・知床」として日本中から注目された知床の環境は一変。
結果、1973年までに農業を行っていた入植者を最後に開拓の歴史に幕を閉じます。そして、開拓された土地は開拓跡地となって残ったのです。
「日本列島改造論」と買い上げ運動
1965年になると田中角栄による「日本列島改造論」によって土地投機ブームが起こります。それは知床半島も例外ではなく、開拓跡地も不動産業者による買い取りが始まりました。
国立公園内にあった開拓跡地ですが保護規制がゆるく、斜里町は土地を国や北海道に買い上げてもらうように要請をしましたが実現せず…。そのため斜里町の独自事業として開拓跡地の保全を進めることにしたのです。
こうして、1977年当時の町長である藤谷豊氏が「全国によびかけて100平方メートルずつ土地を買い上げてもらう」という知床流のナショナル・トラスト運動を開始。
「しれとこで夢を買いませんか」というキャッチフレーズで寄付を呼びかけ、自然保護に関心を持っていた全国の人々の後押しもあって、各地から寄付金が集まりました。
こうして、しれとこ100平方メートル運動は自治体が主導となってすすめたナショナル・トラスト運動として、日本はもちろんのこと諸外国からも注目を集め、運動は全国に浸透していく形となったのです。
買い取りから森を育てる時代へ
大成功を収めた「しれとこ100平方メートル運動」は、「夢の場」として無事確保されるのですが、土地を確保したことで終わるわけではありません。
現在、土地を確保という第1ステージを終え、1997年から第2ステージである「森を育てる」段階に移行して、その後も運動は進められています。
地元の有識者や動植物の専門家で構成された森林再生委員会を設置し、毎年森づくりのために計画の結果の議論や翌年からの計画などが議論されています。
1997年から始まった「しれとこ100平方メートル運動」は、現在でも知床の原生の森を守り、保存していくための活動が続いています。美しい森を、ずっと遠い未来まで残していきたいですよね。ぜひ、知床を訪れる際は「しれとこ100平方メートル運動」を思い出し、環境に対して考えてみてはいかがでしょうか?
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